退任に寄せてのメッセージ

秋山 泰先生

あきやま ゆたか

東京工業大学 情報理工学院・教授、リーダーシップ教育院・教育院長

森尾先生との出会い

森尾先生と初めてお会いしたのは、文部科学省「共創の場形成支援プログラム」事業への応募内容を検討する会合で、場所は信濃町だったと思います。そのプロジェクトは、慶應義塾大学が中核機関になり、東京医科歯科大学・理化学研究所・東京工業大学も参画して、医療情報からヘルスケア情報までを包括的に扱って患者やご家族のウェルビーイングを実現しようという意欲的な内容でした。関係者が一堂に会したのは2020年初頭、コロナ禍が徐々にその深刻さを現し始めた頃でした。同事業では、東京医科歯科大学からは東條有伸先生、古川哲史先生、森尾先生のお三方が特に中心となって議論に参加されてきましたが、森尾先生が大学を代表した連絡役としての重い役割を務められました。東京工業大学からも理事や副学長が参加していますが、なぜか私が連絡役に任命され、以来約4年間、同事業の様々な局面で森尾先生には別大学のカウンターパート同士としてたいへんお世話になりました。平日朝7時台の遠隔会議にほぼ一度も休まず参加される森尾先生は、どれだけお忙しいのだろうと心配にもなりました。

森尾先生への感謝

上記では単に会議に同席しただけの間柄ということになりそうですが、私にとって森尾先生はそれ以上の特別な方です。なぜならば、会議における私の過激な発言に対して、時にはそれを強く推し、時にはそれを柔らかい表現で言い換えるなどして、支えてくださった人を私はこれまで経験したことがなかったからです。上記のプロジェクトは2021年に無事に採択されましたが、構想が大きいだけに論点が多くあります。私は情報工学の立場なのですが、「都合の良いお手伝いを求められても困る」「こちらにはこちらの学問がある」といった、あたかも医学者と対立するような発言も多くなりがちです。時間が限られた会議の中で予定調和を乱す私の発言は、ともすれば4機関の信頼関係を壊してしまいかねないギリギリの球スジばかりでしたが、それを言い換えてくださる森尾先生のご人格と優しさ、揺るがないご見識によって、暴言に堕ちずに提言に変わるということが幾度もありました。すっかり森尾先生ファンになってしまった私は、小児科フロアまでお邪魔して、中には入らず会釈をして帰ることが何度かありました。強い信念とご見識を、溢れ出る優しさと思いやりで包みこんで相手に届けることのできる森尾先生のような方に、今後も変わらずご活躍をいただければと、心より願っております。