森尾先生、ご退官に際し、心より感謝の思いをお伝え致します。
私が森尾先生に初めてお会いしたのは、Jeffrey Modell Foundationが理化学研究所に原発性免疫不全症に関するセンターを設立した2006年頃でした。当時は、マウスを用いて基礎免疫学を進めるスタイルが、理研免疫センターでのリサーチの主流でした。森尾先生の、「難しい遺伝子異常を持った子供たちを助ける」という信念は、基礎科学の研究所に変革をもたらし、基礎の免疫学者が、森尾先生との出会いを通して原発性免疫不全症の研究に着手しました。単一遺伝子の異常で、神経・免疫・バリアなど複数のシステムに複雑な症状を呈する患者さんを助けてこられたご経験を踏まえと拝察しますが、ゲノム科学、医学統計などに関わる方を鼓舞され、遺伝子を読み解く医科学が重要性を増すであろうことを当時から予見されていました。
私は、血液学の世界にいて、免疫と血液は言わば兄弟のような学問ですが、幹細胞と腫瘍を研究対象とするものの、免疫に切り込むことができずにいました。そんな時、造血幹細胞が分化して免疫が再構築されてこそ、疾患を克服でき、人を守ることができる自然な両者の繋がりの良さをご教示下さいました。移植医療の経験の上に、免疫の記憶やエンジニアリングをもって疾患を制する大切さ、今まさに、先生の教えを思い浮かべ、血液・免疫の素晴らしさを病理学と融合させようと目指しています。
先生が患者さんを守り支える想いを教室内でも教室を越えても共有されること、お一人でなく皆で医学を素晴らしくするという理念に、尊敬と憧れを抱きました。毎年お会いできるわけではありませんでしたが、いつしか先生を目標に研究するようになり、その歩みの先に白血病患者さんを助ける夢が叶うと信じてきましたし、今も信じています。私がいただいた言葉の一つに「応用研究に理解は得られやすいものの、安易に目指すのではなく、強い基礎研究の丁寧な裏打ちのもとに進める必要がある。」というものがあります。東工大と一つの大学法人になるにあたり、先生の精神は益々重んじられることと理解しています。
執行部におられて大学を俯瞰されたこと、統合国際機構にてグローバルに多様性を実現されたこと、次世代のために優しく未来を見据える先生ならではの彩りで実行されたことを伺っております。同時に、先生を頼りに集まる子供たちに寄り添う時間、リサーチから新しい医療を拓かれる時間、ご退官の節目があれ、今後も何ら変わりなく、私たちの先生への尊敬も憧れも変わることはありません。先生の愛情溢れるスマイルが、子供たちに希望を、若手に夢を、これからもきっと与え続けられるのでしょう。
"All TMD"から"All IST"へ、"科学から医療へ"、新しい時代をどうかこれからも牽引なさってください。