ご指導をいただきありがとうございました
〜歴史は巡る、ハプロ移植とT細胞除去移植〜
森尾先生は私にとって、血液グループの最初のオーベンでした。ちなみに、2人目のオーベンは高瀬先生で、後年、病院研修に来られた判事補や検事の方々(すでに両先生の講義を受けている)にそのことを伝えると、毎回なぜかワッと湧くので、枕というか掴みというかにさせていただいておりました。
1990年代の前半、まだ骨髄バンク・臍帯血バンクが十分に機能していない頃、先天性免疫不全症で、造血幹細胞移植以外に根治療法がない患者さんを対象に、親御さんからのT細胞除去骨髄移植をしていました。この治療法の統括者が森尾先生で、私は実働部隊の1人でした。
合併症や生着不全の事例も多くありましたが、一部の患者さんで長期生存が得られたことは画期的だったと思います。そこから、私は移植に興味を持ち、輸血部/輸血・細胞治療センターに異動してからも、ずっと造血幹細胞移植を仕事にしてきました。
1990年代後半からは、骨髄バンク・臍帯血バンクからのHLA一致移植が主流となり、今もその状況は続いているのですが、2010年代後半から、ハプロ一致移植(HLAが半分一致している親や子からの移植、移植前処置や移植後の投薬に工夫がある)が行われるようになり、一部の事例では成熟T細胞/B細胞を除去した骨髄液や末梢血幹細胞浮遊液を移植に使うこともでてきました。歴史は繰り返すというか、進化系の治療が一定の周期で出てくるということを興味深く思うとともに、かつてのT細胞除去移植の先進性をあらためて感じています。
大学医学部の教員は、「診療・教育・研究」の3つのタスクを、すべてこなすことが求められますが、3つともできる人はごくごく限られます。研究は優れていてもコミュニケーションに難がある、臨床能力は高いが研究はさっぱり、という先生が多い中、森尾先生は、3つともできる、稀有な方だと思っています。今回、定年の節目を迎えられますが、引き続き後進のご指導をよろしくお願いいたします。