退任に寄せてのメッセージ

鹿島田 健一先生

かしまだ けんいち

東京医科歯科大学発生発達病態学分野 准教授

私が森尾先生にお会いし、色々とお話しする機会を得るようになったのは、大学に病棟指導医として戻り、その後大学院での研究生活に入ったころからです。多くの方にとっては想像もできないことかもしれませんが、当時内分泌グループは存亡の危機に瀕しており、大学院生が研究テーマを見つけることもままならない状態でした。そうした私の状況を見るにみかねて色々と指導いただいたのが当時助教で血液免疫グループを指導する立場におられた森尾先生でした。親切にも森尾先生は、他診療グループである私にも、事あるごとに声をかけていただき、多くをご指導下さいました。まだメンターという言葉が一般的でない時代でしたが、私にとって当時の森尾先生が果たされた役割は、まさしくメンターのそれでした。

大学院卒業後はしばらく一般病院での経験を積み、その後大学での一年の助教を経て、オーストラリアのP.Koopman教室での留学、そして大学へと戻りました。臨床医からフィジシャンサイエンティストへの舵取りは、決して平坦な道のりではありませんでした。そうしたキャリアの中、折をみて悩みや迷いがあれば、相談をさせていただきました。決して耳に心地よい言葉ばかりではなく、時に厳しい、あるいはその時には理解できず、後になって「そういうことか」と腑に落ちる言葉の数々は、今では私にとっては貴重な財産です。その根底にあるのは、高い理想に基づく徹底的なリアリズムとも言うべきものです。目の前のことを先入観なく冷静に分析し、その鍵となるポイントを見出し、解決を図る、これを自分の理想に向けて日々続けていく、と表現できるでしょうか。

森尾先生が小児科を主催するようになられてから、私は医局長として実務レベルで森尾先生が考えられたことを実際の形にする役割を担いました。ここでも私は理念に基づく実務一つ一つがもつ大切さを学びました。そうした理念と実践の積み重ねが教室に広く浸透することで、小児科学教室にはかつてない繁栄がもたらされました。

早いもので森尾先生が教授になられてから10年が経ちます。退官後もきっとこれまで同様、様々な仕事に取り組まれることかと思います。先生のお仕事の発展をお祈り申し上げます。そしてこれまで長きにわたりご指導いただけたことに心より御礼申し上げます。ありがとうございました。