退任に寄せてのメッセージ

森丘 千夏子先生

もりおか ちかこ

武蔵野赤十字病院 新生児内科 部長

森尾友宏先生、この度はご退官誠におめでとうございます。在任中は、時に迷える私たち医局員皆の「一燈」であり続けてくださりながら、大局的な観点から当医局の舵を取り、大きく前進させてくださったことに心より感謝申しあげます。

森尾先生との初対面は私が学生の時でした。他大学から入局のための見学に来た私たちを、当時医局長だった森尾先生が案内してくださいました。その際、「何の分野に興味がありますか?」と尋ねてくださったので、私は当時今ほど分野として確立していなかった「児童精神」と答えました。森尾先生は「それならば一通り研修した後に○○に国内留学するといいですよ、今後必要な領域ですから今の医局ににない分野は外で学んでもちかえってきてくださいね」と声をかけてくださいました。その言葉で私は当医局の柔軟な考え方や、個人の意思を尊重する空気を強く感じることができ、入局の一大決心をすることができました。またその際に、専門分野における働き方の多様性を受け入れる組織づくりが重要だ、との将来のビジョンもお聞かせくださいました。あれから20年以上経過した現在、まさに世の中で主流となっている価値観を当時唱えていらした森尾先生の「驚異的な先見の明」にただただ驚愕、敬服するばかりでいます。私は結局全く違う専門分野にすすみましたが、当医局に入り、長く小児科医を続けてこられたのは一重に森尾先生の存在があったからだと感謝しております。

臨床の現場においても折に触れて医師としての基本姿勢をご指導頂きました。忘れられないのが大学で病棟勤務していた際のエピソードですが、当時の大学病院では診療対象外と決められていた早い週数、低体重の重篤なお子さんが出生するかもしれない事態になった時のことでした。外来中の森尾先生のところに行き状況を伝え、当病院で対応して良いか伺ったところ、一瞬の間を挟み「全力でとりくんでください。全責任は私がとります。」と力強く背中を押してくださいました。その言葉で私たちNICUスタッフの士気は大いに高まり、身を引き締めて診療に臨んだことを今でも鮮明に覚えています。偉大なリーダーを間近で感じた瞬間でした。

森尾先生が見せてくださった小児科医としての「理想像」をしっかりと心に刻み、今後とも精進してまいりたいと思います。ご退職後も益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。