退任に寄せてのメッセージ

立川(川名) 愛先生

たちかわ(かわな)  あい

国立感染症研究所エイズ研究センター第二室 室長

私が森尾先生と研究でご一緒させていただいたきっかけは、日和見感染症に対するウイルス特異的T細胞療法の開発研究でした。10年ほど前、私は、当時東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野に所属しており、HIV感染症を中心に、臨床検体を用いてT細胞免疫の基礎研究を行なっておりました。研究室が前頁の高橋聡先生が所属されていた分子療法分野(当時)の隣に位置しており、ある日の午後、私はお手洗いに行こうと分子療法分野の研究室を通り過ぎようとしたところ、高橋先生が、雑然とした薄暗い廊下にそぐわない、ダンディな紳士とお話をされておりました。高橋先生に軽く会釈をしながら通り過ぎ、用事を済ませてから研究室に戻ろうと、再度お二人の横を通り過ぎようとしたところ、高橋先生がお声がけくださり、その紳士をご紹介いただきました。私が森尾先生にお目にかかった初めての機会でした。あの時、森尾先生と高橋先生は、米国で臨床応用が進んでいた、感染症に対する多ウイルス特異的T細胞療法を日本で立ち上げるための共同研究についてご相談されていたようで、私の研究背景をご存知だった高橋先生が、通りかかった私にお声がけをいただいたことが、事の始まりでした。以来、現在に至るまで、森尾先生が研究代表を務めるAMED研究班でご一緒させていただく機会に恵まれてまいりました。研究班では、主に基礎的検討を担当させていただいておりますが、研究班の定例ミーティングでは、実験手技の詳細から、臨床試験実施に向けた実務的な内容まで、森尾先生が要所要所で核心となるご意見をくださいます。幅広い豊富な知識とご見識に、毎回感服するばかりで、とかく実験室のみで完結しがちなnon-MD基礎研究者の私にとって、定例ミーティングは大変貴重な学びの場となっております。

新型コロナウイルス感染拡大時には、我々感染研主体のCOVID-19研究班にもいち早くご参画いただき、免疫関連ゲノム解析を行なっていただきました。

目の回るようなお忙しさにも関わらず、初めてお会いした10年前と全く変わらぬダンディさを維持されている森尾先生は驚異的で、ご退官のご年齢とは信じられないでおります。多ウイルス特異的T細胞療法の開発研究はこれから臨床応用の段階ですし、COVID-19の免疫病態も未だ解明しきれておりません。まだまだ森尾先生には多くのことを教えていただきたく、ご指導いただく気満々でおりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。