退任に寄せてのメッセージ

富澤 大輔先生

とみざわ だいすけ

国立成育医療研究センター 小児がんセンター
血液腫瘍科診療部長

私と先生との出会いは四半世紀前に遡る。まだ医学生の時だ。当時、先生は学生臨床実習を担当されていて、緊張した面持ちで小児科病棟に足を踏み入れた私たちをいまも変わらぬあの笑顔で迎えてくださった。とにかく格好良かった。背が高く、スマートで柔らかな物腰に私たちはたちまち魅了された。もちろん外見だけではない。お勧めの教科書について尋ねると「Rudolph。Nelsonはイマイチなんだよ。」とのお答え。小児科学のgold standardであるNelson's Pediatricsをイマイチと言いきる先生は凄い御仁だと思った。わずか2週間の期間であったが、先生との出会いは、小児科医の道を歩むことにした私自身の決意に少なからず影響した。

卒業後、私は本学の小児科教室に入局して医師人生のスタートをきった。このときも私を含めた8名の研修医を迎えてくださったのが、森尾医局長であった。特に、血液・腫瘍・免疫グループでの研修では、先生の温かくも厳しい指導の下、医師としての心構えや姿勢を徹底して学ぶこととなった。先生は当時から養子細胞免疫療法の開発などにも取り組んでおられ、現状に満足することなく新規治療開発に向けて飽くなき挑戦を続けることの意義についても学んだ。担当した患者が治療の甲斐なく病死する、という辛い体験が私を襲った際にも、ひとしきり涙した後に血液・腫瘍医としての道を歩みたい、と表明した私の想いを最初に受け止めてくださったのも先生であった。

その後、私は小児血液・腫瘍医としての研鑽を積み重ねてきたが、先生には患者の方針決定など様々な場面で親身になって助けていただいた。また、旧態依然とした主治医制をとっていた本学の診療現場にチーム医療制を導入した際にも様々な形でご支援いただいた。このように、私の医師人生において「森尾友宏」の存在がいかに大きかったか、今回振り返ってみて改めて気づかされる。ただ、先生が教授にご就任された直後に、私自身は現職である国立成育医療研究センターに異動したため、この10年間、直接お力になることが叶わなかったことは心残りであった。一方で、当教室出身者が学内にとどまらず、様々な形で広く活躍していることも森尾時代の特徴である。その点において、微力ながらその一翼を担うことができたのではないか、と自負している。最後に、優れた臨床医・研究者・教育者として当教室をリードされてきた先生に改めて敬意を表するとともに、この場を借りて大いに感謝申し上げたい。