この度は森尾友宏教授の御退任、心より御祝い申し上げます。
私は小児科医あるいは医局員として、森尾先生から印象的な助言を頂戴し、その度「學びて思はざれば則ち罔し」を実感して参りました。御礼を兼ねて、そのご指導につき記させていただきます。
森尾先生にいただいた指導
森尾先生の熱意を初めて感じ取ったのは2008年、初期研修2年時でした。当時准教授回診がありました。声をかけて回るのみの回診が多い中、森尾先生は白血病初発患児のベッドサイドで、自らカギと聴診器を取り出し、肝腫大のscratch signを実演。その姿は強く印象に残りました。相手が小児であるが故、小児科では各種検査ハードルは高くなります。疾患の早期診断には自ずと事前確率を上げる優れた医療面接や診察技術が求められます。あの回診は「患児の体の声を丁寧に聞く重要性」を説いていたのでは、と今になって思い返されます。
また、研究留学から引き続き基礎研究を続けることを報告した折には、「"No"と言えるように」との助言。長らくその真意を汲むべく頭を捻らせていましたが、5年経った今、私が子育て研究者として時間の制約を受けること、そして指導的立場となることを見越し、「自身がすべき仕事を見極める選択眼を養うこと」をご教授くださったのではないかと愚考しております。
抽象的で余白を残しつつも核心をつく言葉で相手を考えさせ、帰納法で真理を自ら導出させる。この指導は、膨大なる知識や業績の積み重ねに裏打ちされた威厳、そして先見の明が背景にあるからこそ成り立つ方法と言えます。そしてそこに留まらず、この複雑な指導を"大局のあるべき姿"を目指して実践されていることが、森尾先生が多くの尊敬を集める所以ではないかと感じる次第です。
最後に
柔和な笑顔の向こうに潜む眼光鋭いスーパーコンピューターに、背筋を正しながら(時に凍らせながら…)、森尾先生のご指導を享受できたことをこの上ない幸福と感じております。長きに渡るご指導に深く御礼申し上げ、お祝いの言葉とさせていただきます。