森尾友宏先生、このたびはご退任を迎えられるとのこと、心よりお喜び申し上げます。
私は、2012年に東京医科歯科大学の小児科に入局し、2014年から2019年まで大学院で学んだことをきっかけに、森尾先生に研究のご指導をいただく機会に恵まれました。私は、森尾先生に大学院でみっちりと直接研究のご指導をいただいた最後の学生のうちの一人ということになろうかと思います。
私が森尾先生に学んだ最も大切なことは、「科学に対する姿勢」ということだったと感じています。研究をどう進めるか、どう「形」にするか、どのように社会に還元するか。これらには定まった正解はなく、科学者・研究者の数だけ解があるものと考えます。私は、幸運にも森尾先生の科学に対する哲学を、プログレスミーティングでの議論や論文の読み方、論文の書き方、査読の仕方をご指導いただいたことを通じて少しずつ学ぶことができました。色々な学内外のミーティングに連れて行ってくださったこと、リサーチカンファのための2泊3日の弾丸ニューヨーク旅行、海外学会発表直前の会場前二人予演会等々、当時の私にとっては必死に過ぎ去っていた時間ですが、今思い返すとなんと貴重な機会をいただいたのか、なんとご迷惑・ご心配をおかけしたのかと驚くばかりです。現在私は、ポスドクとして基礎研究武者修行中の身ではありますが、研究で大きな問題にあたる時、今後の方針を考えるとき、論文を書くとき、私は必ず森尾先生ならどう考え、進めるのだろうかということを考えます。「親父の背中」を見て子が育つように、私は森尾先生の背中を見て科学に対する考え方を学び体得したのだと思います。私が大学を離れてから、時々お会いするたびに近況報告のお話をしているのはまるで、親元を離れて一人暮らしを始めた子が親に近況を話しているようなものかもしれません。
今、私たちが学ぶことは規格化、標準化され、誰もが同じ水準の正解を得ることも多くなっています。一方で、科学に携わる者にとって最も大切であると言える「科学に対する姿勢」の会得に関しては、いまだ師弟制度に依るところが多いのではないでしょうか。私は森尾先生に師事することができて本当に幸せだったと思いますし、それは森尾先生に科学の手ほどきを受けた諸先輩方、学友の皆も同じ気持ちと思います。
さて、いつになっても子供は子供で親父は親父です。これからも、時々困って泣きつくこともあろうかと思います。その際はまた「親父の背中」で導いていただけましたら幸いです。