ウイルス特異的T細胞療法の開発Clinical and research efforts
造血細胞移植後の治療抵抗性ウイルス感染症に対する第三者由来複数ウイルス特異的T細胞療法の開発と研究
神谷尚宏 Takahiro Kamiya
概略図
- 引用文献
- 1)Bone Marrow Transplant. 2009;44(8):453-558.
2)Sci Transl Med. 2014;6(242):242ra83
説明文
- 造血細胞移植後には免疫の非常に弱い時期が続き、様々なウイルス感染症に罹患する危険性があります。造血細胞移植に用いる免疫抑制剤の減量や抗ウイルス薬等の治療を行っても重症化したり、長期化することが稀ではなく、新しい治療手段が求められています。また、複数のウイルスが同時に感染することも時に問題となります。これに対し、私たちは複数のウイルスに対して治療効果を発揮する免疫療法である複数ウイルス特異的T細胞療法(以下MVSTと略します)を開発しています。
- 造血細胞移植後のウイルス感染症に対する特異的T細胞療法は1980年代から開発が行われていましたが、効果や安全性、費用など様々な問題がありました。これに対して2012年ころよりBaylor大学を中心としたグループがOverlapping peptides (OLP)を用いた培養方法を開発し、臨床試験によって有効性と安全性が示される論文が複数報告されましたが、日本国内での開発・導入が遅れていました。
これに対して私たちは、2013年より厚生労働科学研究費補助金「臓器移植・造血細胞移植後日和見感染症に対する有効かつ安全な多ウイルス特異的T細胞療法の開発と実用化に関する研究」において、上記Baylor大学の技術を用いた培養技術を確立し、2016年からのAMED免疫アレルギー疾患等実用化研究事業「移植後日和見感染症に対する特異的T細胞療法の開発と臨床応用に関する研究」においてHLA半合致以上の血縁ドナーからMVSTを培養・作製し投与する臨床研究(第一種再生医療等技術)を実施しました。 - 上記臨床研究では、難治性ウイルス感染症の患者さんに投与する細胞を準備するまで時間がかかるなどの問題がありました。そのため、2019年からのAMED再生医療実用化研究事業「造血細胞移植後難治性感染症に対する複数ウイルス特異的T細胞療法の臨床研究」において、健常ドナー由来MVSTを予め作製・凍結保存して用いる第三者由来MVST療法を開発し、2022年からのAMED再生医療実用化研究事業「造血細胞移植後の治療抵抗性ウイルス感染症に対する第三者由来複数ウイルス特異的T細胞療法の開発と研究」において現在新規臨床研究の準備を進めています。(jRCT登録番号:jRCTa030230316)
具体的には、造血細胞移植後に治療抵抗性のアデノ、サイトメガロ、EB、BK、JC、ヒトヘルペス6型、各ウイルスいずれかの再活性化・感染症を呈する患者さんを対象に、治療が必要な際にすぐ投与できる「第三者由来MVST療法」の臨床研究を計画し、その安全性と有効性を多施設共同研究において検証することを目指しています。
論文等
- Kamiya T, Morio T. [Viral infections after hematopoietic cell transplantation and treatment with virus-specific T-cell therapies]. Rinsho Ketsueki. 2021;62(8):1334-42.
- Yanagimachi M, Kato K, Iguchi A, Sasaki K, Kiyotani C, Koh K, Koike T, Sano H, Shigemura T, Muramatsu H, Okada K, Inoue M, Tabuchi K, Nishimura T, Mizukami T, Nunoi H, Imai K, Kobayashi M, Morio T. Hematopoietic cell transplantation for chronic granulomatous disease in Japan. Front Immunol. 11:1617, 2020.
- Okano T, Imai K, Tsujita Y, Mitsuiki N, Yoshida K, et al. (55名:last author) Hematopoietic Stem cell transplantation for progressive combined immunodeficiency and lymphoproliferation in patients with activated Phosphatidylinositol-3-OH kinase δ syndrome type 1. J Allergy Clin Immunol. 143:266-275, 2019.
- Nishiyama-Fujita Y, Kawana-Tachikawa AI, Ono T, Tanaka Y, Kato T, Heslop HE, Morio T, Takahashi S. Generation of Multivirus-specific T cells by a single stimulation of peripheral blood mononuclear cells with a peptide mixture using serum-free medium. Cytotherapy. 20:1182-1190, 2018.
- Ono T, Fujita Y, Matano T, Takahashi S, Morio T, Kawana-Tachikawa A. Characterization of in vitro expanded Virus-specific T cells toward adoptive immunotherapy against virus infection. Jpn J Infect Dis.71:122-128, 2018.
政策提言
- 再生医療における制度的枠組みに関する検討会:医療機関における自家細胞・組織を用いた再生・細胞医療の実施について(医政発0330第2号)
(2010年(平成22年)3月30日) - 再生医療における制度的枠組みに関する検討会:再生・細胞医療に関する臨床研究から実用化への切れ目ない移行を可能とする制度的枠組みについて
(医政発0428第6号、役職発0428第2号)(2011年(平成23年)3月30日) - 厚生労働省・「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会」委員(2011年(平成23年)~2014年(平成26年))
- 厚生労働省・「再生医療等の安全性確保等に関する法案研究班」委員(2013年(平成25年)8月~2014年(平成26年)3月)(再生医療新法関連省令および通知 (平成26年))
- 医薬品医療機器総合機構科学委員会細胞組織加工製品専門部会委員(2012年(平成24年)8月~2014年(平成26年)3月)(iPS細胞等をもとに製造される細胞組織加工製品の
造腫瘍性に関する議論のまとめ(2013年(平成25年)8月20日)) - 医薬品医療機器総合機構科学委員会細胞調製施設専門部会委員(2014年(平成26年)4月~)
- 再生医療等製品の品質確保における基本の考え方に関する提言 (2015年(平成27年)8月14日PMDA)
- 細胞調製に関する施設及び運用に対する考え方(2013年(平成25年)9月3日)日本再生医療学会
- 免疫細胞療法細胞培養ガイドライン(2013年(平成25年)11月25日)免疫細胞治療関連6学会
- 特定認定再生医療等委員会におけるヒト多能性幹細胞を用いる再生医療等提供計画の造腫瘍性評価の審査のポイント」医政研発0613 第3号
(2016年(平成28 年)6月13日) - 「再生医療等研究の利益相反管理について」「再生医療等研究における利益相反管理ガイダンス」「再生医療等研究における利益相反管理ガイダンスQ&A」
医政研発0320号第1号(2019年(平成31年)3月20日) - 「ヒト(同種)細胞原料供給に係るガイダンス」 経済産業省(2020年3月)
- 「ヒト(同種)細胞原料供給に係るガイダンス(第2版)」 経済産業省(2021年3月22日)
- 認定再生医療等委員会の審査の質向上事業:認定再生医療等委員会の審査の視点(臨床研究用)
- 認定再生医療等委員会の審査の質向上事業:認定再生医療等委員会の審査の視点(治療用)
- 認定再生医療等委員会の審査の質向上事業:認定再生医療等委員会の審査の視点(第三種 がん免疫細胞治療用)