高感度網羅的迅速ウイルス検査Highly Sensitive Comprehensive Rapid Virus Test
網羅的PCR法の開発 先進医療としての取り組み
神谷尚宏 Takahiro Kamiya
概略図
説明文
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による網羅的病原微生物の検出は、リアルタイムPCR技術の進化と、日和見感染症への対応の必要性から開発されてきた(1)。森尾友宏先生、清水則夫先生を中心に網羅的迅速診断システムの開発が進められ、造血細胞移植後に問題となる様々なウイルスを迅速に検出することが可能となった(2)。造血細胞移植ではサイトメガロウイルス(CMV) (3)、EBウイルス(EBV)、アデノウイルス(ADV)に加えて、単純ヘルペスウイルス1/2((HSV-1/2)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6) (4)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV,)、ヒトヘルペスウイルス7型(HHV-7)、BKウイルス (BKPyV)、JCウイルス(JVPyV),さらにインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、メタニューモウイルス、 Respiratory Syncytial Virus(RSV)などの呼吸器関連ウイルスの感染が報告されている。特にHSV、VZV、CMV、EBVなどのヘルペスウイルスは移植レシピエントに潜伏感染した状態から造血細胞移植後に再活性化し、時に重篤な感染合併症を引き起こすため、造血細胞移植前に抗体化を測定し感染状況を把握するとともに、造血細胞移植後の注意深い経過観察が重要となる。当院では造血細胞移植後ウイルス感染症を迅速に診断する目的に、2016年9月より先進医療Aとして「多項目迅速ウイルスPCR法によるウイルス感染症の早期診断」を実施、HSV-1/2、VZV、EBV、CMV、HHV-6、HHV-7、HHV-8、BKPyV、JCPyV、ADV、パルボウイルスB19 (Parvo-B19)の 12 種類のウイルスについて定性および定量PCR で検出を行っている。これにより造血細胞移植後ウイルス感染症の早期検出、病勢評価を行い、早期治療介入や免疫抑制剤の調整が可能となっている。近年フィルムアレイ技術など新型コロナウィルスを含む微生物の網羅的同定を行う技術も実装されてきている。多項目迅速ウイルスPCR法は早期に原因微生物を網羅的に検出し、治療効果をモニタリングする技術の社会実装における先駆けとなった。
論文等
- S. Sugita, N. Shimizu, K. Watanabe, M. Mizukami, T.Y. Morio, Sugamoto, et al. Use of multiplex PCR and real-time PCR to detect human herpes virus genome in ocular fluids of patients with uveitis. Br J Ophthalmol, 92:928-932, 2008
- Kamiya T, Morio T. [Viral infections after hematopoietic cell transplantation and treatment with virus-specific T-cell therapies]. Rinsho Ketsueki. 2021;62(8):1334-42.
- Inoue M, Isoda T, Yamashita M, Tomoda T, Inoue K, Okano T, Ohkawa T, Endo A, Mitsuiki N, Kamiya T, Yanagimachi M, Yamamoto K, Inaba Y, Sasaki T, Takagi M, Kanegane H, Imai K, Morio T. Cytomegalovirus Laryngitis in Primary Combined Immunodeficiency Diseases. J Clin Immunol. 41:243-247. 2021
- Endo A, Watanabe K, Ohye T, Suzuki K, Matsubara T, Shimizu N, Kurahashi H, Yoshikawa T, Katano H, Inoue N, Imai K, Takagi M, Morio T, Mizutani S. Molecular and virological evidence of viral activation from chromosomally integrated human herpesvirus 6A in a patient with X-linked severe combined immunodeficiency. Clin Infect Dis. 59:545-548. 2014